からだを隠す最後の布をはぎとったって、彼ははずかしがるそぶりひとつ見せなかった。
ニヤニヤとからかうみたいな笑みをみせる彼の目に、見下ろされながら、髪よりは暗いいろをした陰毛のさいしょの生えぎわに、舌を這わせる。彼の息が笑った気がした。すこし硬い毛を舌と、それからゆびでかき分けながら、視界を降ろしていく。
気を抜いたらいつでも暴発しそうなくらい興奮した俺にくらべて、彼の性器はまだ気持ち程度にしか勃ってなかった。色素の薄い俺のものよりずっと、赤みの強い彼のものは、ひどく生々しくみえた。肉のいろそのままだ。飢えをおぼえた喉が、唾液を飲み込んだ。
味見するみたいに根元から、舐め降りていく。張りだした場所を、一周するように舐めとったら彼のふとももが、ひく、とちいさくふるえた。いちばん先端のちいさな穴を舌のさきでつついたら、もっとおおきくふるえてみせた。
ハ、と、こぼれてきた彼の息も、ふるえていた。あたまのうえに彼の手が乗る。髪をつかみ取る彼のゆびに誘われて俺は、くちのなかに彼の性器を飲みこんだ。
飲み込めるだけ飲み込んだ彼の性器を、舌とくちびるでいじりまわす。

「ッ、は…っ」

いちど吸い込んだあとに吐き出された彼の息は、いままでよりずっと乱れていた。
ハッ、ハッ、と犬みたいに荒っぽい息が、ふたりぶん重なる。動物じみたそのおとに、吠えたくなるほど興奮した。くちのなかで硬くなっていく彼の性器の脈打つ血にだって興奮したし、性器のさきからにじみ出てくる彼の体液にだって興奮した。
ほんのすこしでもこぼしたくなかった。とがらせた舌のさきを、入るわけもないのにねじ込もうとちいさな場所にぎゅうぎゅう押しつけた。
片手で彼のふくろを揉みこみながら、あたらしくにじんできた先走りを、じゅうっ、とおとを立てて吸い込んだら彼の手が、俺の髪をぎゅうっと握りしめた。ちからのこもったそのゆびさきにだって興奮した。
理性なんて、はじめからあったのかどうかもわからなかった。彼を追いつめたい本能と、熱でいっぱいのあたまはもう、彼のなかに入ることばかり考えていた。たったいちどだけ知った彼の、あたたかくてやわらかいからだのなかに自分の性器を入れてこすってイきたい。
彼の性器のうらがわにゆびを這わせる。薄く張りつめた皮膚をたどってみつけた、ちいさくすぼまったくちにゆびのはらを押しつけたらそこが、ひく、ひく、とうごめいた。
せまいここをはやく、いっぱいにひろげて、なかに入りたい。ぐ、とゆびにちからを込めたとたんところが、彼に、顔を蹴り飛ばされた。
彼のものに歯を立てなかった俺をほめてほしいくらいだ。いったいどこにこんなちからが残ってたんだろう、しっかりした痛みに涙目になりながら顔をあげたら、俺を睨みつける彼の目もとも、頬も、暗がりにうす赤くほてって染まっていた。それだけで、また飛びついてしまいそうな自分を抑えるのがどれだけ辛いか彼は、分かってるんだろうか。

「濡らしもしねーで突っ込むつもりかテメェは」

入れさせないなんて言われたあかつきには泣きわめいてでも駄々をこねてやる。プライドなんて欠片も忘れ去った決意を胸に、睨み返した俺の目は、その瞬間眉ごと一気に垂れ下がった。
このまえの二の舞になんて俺だってしたくない。したくないのに、濡らすものなんてなにも持ってない。
舐めるだけじゃどうしたって足りないし、ゴムだってそういえばない。でもここでやめたくなんてない。やめられるわけがない。
いったいどうすればいいんだろう。すがりつくおもいで彼を見たらいかにも、しょうがないというようなため息をついて彼が、からだをねじった。うつぶせになった上半身を片手のひじで支えながら、もう片方の手を棚に伸ばす。
三つある引き出しを何度か開けたり、閉めたりする彼を、なにもできずにただじっと見ていたら、かたちのちがうなにかがふたつ、順番に飛んできた。咄嗟に両手で受け止める。

「なんもねェよりマシだろ」

ひとつはゴムでもうひとつは、楕円形をしたプラスチックの白い容器だ。ちいさなラベルに目をこらしたら、ハンドクリームと書いてあった。ふたを開けてみる。半透明のクリームに、においはほとんどなかった。自分の肌になんてまるで興味を持ってないような彼が、どうしてこんなものを持ってるんだろう。

「オンナの忘れモン?」

なんでもないふうを装ったつもりだったのに、彼には通じなかったらしい。クッ、とおかしそうに笑いながら、彼はからだを仰向けにもどした。

「ンなもんにまでヤキモチ焼いてンじゃねェよ」
「…気になっちまうんだからしょーがねーだろ」
「俺のだよ」

わかったらさっさと続きをやれと、俺の腹を足で軽く小突く彼は、機嫌がよさそうに笑っていた。

「チョークばっか使ってっとガサガサになっちまってな」

だったらこんな、間に合わせで買ったような安っぽいやつじゃなく、もっといいものをこんどプレゼントしよう。シーツのうえに投げ出してあった彼の手を片方とって、かさついたゆびさきに俺はくちづけた。そうしないとこのさき、彼のこの手を見るだけで俺は、興奮してしまいそうだ。
垂れ落ちるくらいすくいとったクリームは、ゆびのうえでゼリーみたいにふるえた。
冷たいそのかたまりをゆびでぐちゃぐちゃに混ぜてあたためてから、彼のそこに近づける。ゆびがふれたとたんそこが、ちゅ、とおとを立てた。
ふ、とちいさく息を吐き出す彼のくちびるにくちづけを落としながら、おびえるみたいにひくひくと収縮するそこを、クリームでまみれたふたつのゆびで撫でる。撫でながら、すこしもすきまのないくちをゆびのさきでつついて、つつくたびに、すこしずつちからを込めた。にちゅ、とおとが鳴るくらいつよく押しこんだらゆびが、とうとうちいさなくちをこじあけた。

「ん…っ」

俺のくちのなかでこもった彼の声に合わせてせまいそこが、入りこんだゆびにきゅうっ、と吸いつく。
これ以上進むなと抗議してくるそこから、すこし抜いて、また押しこんで、を繰り返しながらすこしずつ、奥のほうを掻きわけていく。
熱いなかでとろとろに溶けてしまったクリームが、ぐちゅ、ぐちゅ、と鳴きだした。俺のあたまのなかも熱でとろけてしまいそうだった。乱れるばかりの息が苦しかった。くちづけを離したら、眉をひそめるだけの彼を見つけて焦った。根元まで入ってしまったゆびで、やわらかいなかを必死にさぐる。
知識でだけは知ってたイイところをようやく見つけ出して、彼の顔色を、うかがいながらそこを、強くこすってみた。彼ののどがひくっ、と引きつった。

「っぅあ、アっ」

彼に躊躇いはなかった。いちど見開いたひとみを、すっ、とせつなくほそめて啼いた、彼の、高くてあまいこえに、これ以上は無理だとおもってた熱が、さらにあがった。
そこをこするたびに彼が、あ、あ、とこえをあげる。うすいくちびるは濡れていた。きれいな緑色も水っぽく潤んでいた。うすく開いたその目が、俺を見たら、イきそうになった。腹にぐっとちからを込めてなんとか耐え抜きながら、ふたつめのゆびをそこに押しあてる。
ひとつだけでもいっぱいにひろがってみえるちいさなくちを、もっとひろげてしまうのはひどく残酷なことにおもえた。なのに、興奮した。ひくんっ、ひくんっ、とおびえるくせにとろけたクリームをだらしなくこぼす、ひだの端に、爪をたてないようゆびを、引っ掛ける。
すこしずつゆびが、食い込んでいく。濡れたひだがひろがっていく。さいしょのゆびのとなりにゆびさきだけ、にゅち、とおとを立てて押しこんだらあとは、あっというまに、にゅくにゅくと根元まで飲み込んでしまった。ふたつのゆびでなかを、ぐちゃぐちゃにかきまわす。

「アっ、すげ…っそこ、イイ…っ」

気持ちよさそうなのを隠しもしないで笑った、彼に、いっそ腹が立った。
熱い息を吐く彼のくちびるに噛みつきながら、片手でジーンズのファスナーを降ろす。下着をずり下げたとたん飛び出てきた俺の性器は、腹につきそうなほど勃っていた。シーツのうえに転がったゴムを手さぐりでつかまえる。アルミの封を噛みちぎるために、彼からくちびるを離した。
カラの包みを放り投げて、彼のなかからゆびを抜いて、必死にゴムをつけようとする俺の、慣れない手つきを見て、性器を見て、それから俺を見て彼は、場違いなほど楽しげに笑った。
首すじに、彼の腕が絡まる。

「したの毛もキンパツ」

笑いまじりに、俺の耳もとでからかうようにささやく彼のこえも、息づかいも、背中をすべるゆびも、なにもかもがどうしようもなくいやらしかった。ほとんどパニック状態のまま、彼の両足を抱え上げた。とろけたクリームで濡れたちいさなくちに、性器のさきをぴと、と押しつける。
ぐぅっ、とちからを込めていくたびに、心臓のおとがおおきくなる。
性器のさきが、まわりのひだも一緒に押しこみながらせまいそこを無理やりこじあけていく光景に、あたまが爆発しそうだった。もうすこし、もうすこしで入る。ハ、ハ、と荒れるふたりぶんの息に追い立てられてぐっ、と腰ごと押しつけたら亀頭までが一気に、ずちゅん、と重たいおとをあげて彼のなかへ飲み込まれた。とたんに驚いたそこがぎゅうう、と締まったときが、限界だった。どくんっ、と最後におおきく吠えた心臓に、息が詰まった。いっぱいに溜まった血が一気に外へ飛び出す衝撃に、歯を食いしばる。
おもいだした呼吸が落ちつくまで、どのくらいかかったかはわからない。ちいさく震える彼のからだに我にかえったときにはもう、俺の顔はバカみたいに熱かった。目を合わせることもできなかった。この場から逃げ出したくて、なのに彼から離れることもできなくて、ひたすら彼の肩に顔を押しつけた。
いつもよりは苦しげな、いつもの笑い声に合わせて、彼のからだが揺れる。
恥ずかしくて死にそうだ。

「わっけーなァおい」

入れただけでイくなんて、いますぐ死んでしまいたい。

「かわいそーになァ。我慢できなかったんだもんなァ?」

俺のあたまをぐりぐり撫でつけながら、心底嬉しそうに彼が、俺の羞恥心にトドメをさす。
こんなに意地の悪い彼を、好きになった俺が悪いんだろうか。それとも我慢も効かないくらい好きになった俺が悪いんだろうか。どっちにしたって俺が悪いんじゃないかと、簡単に納得してしまえる俺に、言い返せるわけがなかった。
熱いばかりの頬を、なまめかしく汗で湿った彼の肩にすつける。俺をいじめるのは彼なのに、俺がなぐさめてほしいのも彼だなんて、救われない。
救いになるとすれば、いちどイったおかげでほんのすこしだけ余裕のできた理性とあとは、彼の呼吸に合わせてうごめくそこに、中途半端に入りこんだままの俺の性器のバカみたいな立ちなおりのよさだ。
脈々と容積を増していく俺のものに彼が、ちいさくふるえる息を吐く。俺は続きをしたいと、こえにする勇気はまだないかわりに、おそるおそる顔を上げてみた。

「っ、イくのもはやけりゃ、復活すんのもはえーな」

息苦しさを、気の強そうな笑みでぬりつぶす彼のくちびるに、もういちど続きをねだって触れるだけのくちづけをしたら、彼の手が俺のあたまを引き寄せてくれた。舌を絡めれば、彼の足も俺の腰に絡まった。
押しつけられた彼の太もものやわらかさや、湿った肌の吸いつくようななめらかさに、すぐまた勢いづいてしまいそうな衝動をシーツを握りしめて抑えこんで、ゆっくりと、彼のなかのもっと深い場所をめざす。

「ぅ…っ」
「晋助さん…いき、っ、止めねーで」
「っンなこた、わかって…っァア!」

声を出した拍子に抜けたちからと塗りたくったクリームに助けられて、ずるっ、と性器が一気にぜんぶ入りこんだ。その衝撃で彼のからだがいちど、がくんっと大きく揺れた。入ってくるはずのない他人の肉を必死で追い出そうとする彼のなかがぎゅううっ、とおもいきり締まったら、今度は俺の息が止まりそうになった。
熱くてせまくてやわらかくて、気持ちよすぎた。やっぱり、さっきイっておいてよかったのかもしれない。そうじゃなかったらきっと、彼のことなんて考えもできずにがむしゃらに腰をふってただろう。そんなことをしたら彼に、どんな目に合わされるかわかったもんじゃない。

「だいじょぶ…?」

ゼェゼェと荒れる息を意識して長く吐き出しながら、俺よりずっと短い息を吐きだす彼の、汗で額に張りついた長い前髪をよけてやる。
現れた辛そうに寄ってしまった眉間に、くちづけたら、ちからの入りきらないゆびさきでパチンと頬を叩かれた。

「いきなり、すぎンだよテメェ…っ」
「スンマっセン」

潤んだ目で睨みつけられたってすこしも怖くなかった、どころかぐっと色っぽくなった緑色に、できればいますぐしゃぶりついてしまいたい。
辛いおもいをさせて申し訳ないと、おもう以上に浮かれてる自分が居た。やっと入り込めた彼のなかをはやくもっと味わうことだけで、あたまのなかはほとんどいっぱいで、どうにも落ちつかなかったけれど、あとのことを考えたらいまのうちに機嫌をなおしてもらったほうがいい。だから精一杯反省してるふりで様子をうかがったら、さっきよりは確かなちからでもういちど頬を叩かれた。

「おまえ、ぜんぜん反省してねー、だろ」
「そ、そんなことねーって。マジ反省してます!こころの底から!」
「うそつけ」

ふ、と笑みをつくった目じりが相変わらずかわいくて、目のなかに溜まった水ごと吸いついたら、お返しにあたまを撫でられた。それからまた遠慮なく引きはがされた。
彼は、俺の髪を手綱かなにかと勘違いしてるんじゃないだろうか。ぶすくれた顔をつくってうかがい見たら彼は、見下ろされてるくせに見下すような目つきで、俺を見返して挑戦的に笑った。

「よくなきゃ承知しねーからな」
「…努力します」

ククッ、とおもしろそうに声を出して笑う彼のくちびるは、くちびるでふさいだ。



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