ほれ、バンザイしろ。なんてバカみたいな言い方に、負けないくらいバカみたいに強ばったからだは言うことを聞いてくれなくて、結局困ったように笑う彼に両腕を持ち上げてもらうことになった。
セーターとキャミソールをまとめて引っこ抜かれたら、おなさけで肩に引っかかってるだけの見慣れた黒いブラと肌色があらわれて、当たり前のように恥ずかしくなった。両手がシーツを握りしめる。
おうとつの少ないこのからだを、彼が気に入ってくれるのか不安で、けれどその答えを彼の目に見つける勇気がなかった。顔を伏せても、もう怖いとおもわないことだけが救いだった。腰を包み込む指の触れ方ひとつで、それが彼のものだと短い時間にからだがちゃんと覚えてくれている。

「ほっせェよなァ」
「ン…っ」

両側から腰を掴んでいた彼の指が、からだのラインを確かめるように脇腹を撫でたら、小さく声が漏れて、慌ててくちびるを噛み締めた。そのおもわせぶりな遅さは、腕のつけ根をとおって、肩にまでたどりつく。その間ずっと、からだはかすかに震えつづけて、そのたびに、声の代わりに吐息がこぼれた。
肩ひもが肌から離れる気配に、頭が痛くなるくらい強く目をつむる。カサ、とささいな音を立てて、からだをおおっていた最後の重さがとれた。
細い布の感触が手首まで滑り落ちると、彼は、シーツにすがりついていた手を片方ずつ引き離して、掴んだそのまま彼の両肩に乗せた。新しく与えられたその場所に必死でしがみつく。
なだめるように背中を撫でてくれる彼の手に、そっと目を開けたら、少し見上げた場所で彼と目が合った。

「だから、ンな顔すんなっての」

部屋に運び込まれたときと同じような丁寧さでベッドに寝かされたところで、彼との距離はなにも変わらなかった。少しでも顔を上げれば額がぶつかりそうなくらいの場所で、彼はまた、眉尻を下げて笑っていた。それしか見えなかったし、見たくなかった。自分がどんな格好でいるのかなんて、背中いっぱいに触れるシーツの冷たさだけで十分だ。実際に目の当たりにしたらきっと、恥ずかしくて死んでしまう。

「あの、さ」

でも彼は間違いなく見たのだ。見て、そしてどうおもったんだろう。
んー?とのん気な返事をくちづけと一緒に降とす彼に、おもいきって彼女は聞いた。

「できそう、か?」
「…は?」
「だから…俺が相手でも、その、できるようになれんのかな、って」
「…ケンカ売ってんのかテメェ」

両腕を勢い良く彼からひっぺがされた。ベッドにきつく押さえつけられて、驚いたさきに見上げた彼は、ひどく不機嫌そうに目を細めていた。

「年増じゃねーと勃たねェようなマニア野郎に俺が見えるっつーのかコラ」
「っそーじゃなくて…俺、胸、ちっせェし、全然オンナっぽく、ねェし」

せまい隙間から恐る恐る見下ろせば、ほとんど真っ平らなからだがあった。色気がないと言われた日のことを唐突に思い出す。悔しいけれどほんとうだ。これじゃあ男とかわらない。はじめて会ったときに居た女や今日見たバーの女みたいな、色っぽい女を見慣れた彼がこんな自分に興奮できるなんて無理じゃないかと、あらためておもったら泣きたくなった。
気を抜いたら涙まで溢れてきそうで、ふたたびぎゅっと降ろしたまぶたに、かさついたやわらかさが触れた。今ではもうからだじゅうに染み込んでしまっている彼のくちびるの感触が、つぎに触れたのは胸だった。
予想もしてなかった事態に咄嗟に目を開けたさきで、彼は、ニヤン、と三日月型にくちびるの端を持ち上げていた。

「かーわいいよなァ、コレ」
「ゃ…っ」

色づいた中心のまわりを、わざと取り囲むように、ちゅ、ちゅ、と音を立てながらくちびるが落とされていく。やわらかいふくらみがほんの少し押しつぶされて、そのたびに、押さえつけられた腕がパサパサとシーツを叩いた。
楽しげに弓を描いた目で、じっと見つめてくる彼から目を反らしたいのに、次になにをされるのかとおもうと怖くてできずにいたら、見せつけるみたいに出した舌で、彼が突起のさきをぺろっ、と舐めた。

「やぅッ」

深いキスをされたときに襲われるよりもずっと鋭い疼きに、わけもわからないまま声が出て、同時にちいさく腰が跳ねた。彼の目がすうっ、と細められる。
冷たいわけでも優しいわけでもない、笑みをつくるわけでもないそれが、欲をはらんだ眼差しなんだと、本能でわかった。ぶわぁっ、と頭のなかが熱に取り囲まれるのも、たぶん本能だ。押さえつける彼の手が離されても、動けなかった。
からだをずり上がらせた彼が、吐息がかかるほどの近さから顔を覗き込んでくる。片方の手で頬をそっと撫でられて、もう片方に、今までなにもされてなかったほうの胸ぜんぶを、包み込むようにやわらかく握られた。

「形もイイしいじるにゃちょーどいいサイズだし、マジでいいこと尽くしじゃねェか」
「ンやぁ…っ」

痛くないギリギリの強さでゆびの腹を、ピンと小さくとがった先端にこすりつけられて、得体の知れないむず痒さがからだじゅうを駆けめぐった。それをどうやってやり過ごせばいいのか分からなくて、必死でシーツを握りしめたら、その手をひとつずつ順番に取りはらわれた。代わりに掴まされた彼の肩に額も一緒にすりつけたら、首すじをゆっくりと舐め上げられて甘えたような啼き声が出た。怖かった。最初とまるで違う種類の怖さだった。
だってこのままじゃ、どうなってしまうのかわからない。わかるのはただ、そんな自分を助けてくれるのが彼だということだけだ。しんすけ、と震える声で何度も彼を呼んだら、彼はやっと、その怖いものを生む場所に触るのを止めてくれた。
ようやく見ることができた彼の目は、欲を埋め込んだまま笑っていた。

「オマエ相手に勃たねェような奴ァ、セックスする資格もねェよ」


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たかすぎと銀さんはドSコンピレーションアルバムだとおもいます。ひじかたきょうだいは
さんざん泣かされて可愛がられればいいんだ。
ところであたしはいったいどんだけ書くつもりなんだろうか。

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